ベルばらにまつわるあれこれ

「私が政治学を始めた理由というのは、いろいろあるんですが、それをいうのが面倒なとき、簡単に『ベルばらを読んだからです』と答えることにしています。」
と、ベルばら*1を読む学生を見たある教授が、講義の冒頭で語った。私のボルテージが(というかその先生への好感度が)ぐおぉおんと上がったのは言うまでもない。
ベルばらは、私が今まで読んだフェミニストの文章の中では「最終的には敗北したストーリー」とされている。どんなにかっこよく、男性と対等に渡り合い、自由に自分の道を選んでいても、最後には結局幼なじみのアンドレの愛を受け入れて頼っている。それを究極の幸せ・理想として描いている。というような言われ方。時代的制約には勝てなかったのだ、など。
「時代的制約」・・・著者の語る編集部との闘いを聞くと、まったくなんというか、そんな中ではそれでも十分すぎる勝利といっていいだろう、と思う。
フランス革命を描きたいと言ったときの編集部の言葉は「女子どもに歴史物は分からない、受けない」。少女誌の編集やっててその言い草かよ。マスコミ・出版は男社会というのがよく分かる一言。すでに得ていた漫画家としての人気と、打ち切り覚悟の説得でとにかく連載にこぎつける。人気が出てくれば人気のキャラをとにかく出せ!との押し。しかし一番人気のオスカルの死後は「10回でやめてください」だったらしい。最初と途中と最後の*2整合性のなさはそのへんの話を聞くと理解できます。10回でやめてください、でなければ、また新たな主人公が登場して、ずいぶん違ったベルばらになっていたんだろうな。ロベスピエールとか、サン・ジュストとかそのつもりだったらしいし。フランス革命としては始まったところ(オスカルが死ぬのはバスティーユ)、オスカルが死んだら持たないからやめろといった編集部さんは結局のところ「歴史物は分からない」という認識を変えないままだったのだろうな。読んでみたかったな、続き。「エロイカ」というナポレオンを主人公に、ベルばらのキャラも使った話も実はあるのだが、絵のタッチがすっかり変わっている等、読む気になれないまま。
そんなマニア話を披露したかったはずではなく・・。私にとっても政治学を学ぶ理由になったような気がするなあ、と思うから。著者は確実にジェンダーを意識してベルばらを描いている。もちろんそんな単語は当時まだ使われていなかったけれど。「ベルサイユのばら三十周年に寄せて」という文*3の中で書いている。

 真実描きたかったことはと言えば、一点に尽きている。
 女性の人間としての自我の確立とそれによって自立した能動的な人生である。
 (中略)
 フランス革命とは、日本の女性たちにとっての内なる革命であって欲しかった。

ベルばらを読むだけでは、ここまでしっかりメッセージを受け取ることは難しいような気がするが、これを読んだとき、そうだ、これだ!と思った。ベルばらをいいと言ってくれる人間は、ジェンダーにも敏感だ!というわけで、私はベルばらをちょっとした“ジェンダー・センシティビティー・チェック”に使っていた。しかし…この文章、久しぶりに読むとまた面白いな。人権宣言とはしかし「男性と男性市民の権利宣言」であって・・・とか。
宝塚版のベルばらには、このメッセージがないんだよな。どうやら男社会のようだから、仕方ないのかもしれないけど。かっこいい、美しいキャラクターたちがお決まりのセリフ言って、結ばれればいいってもんじゃないんだよ?「どこをどうおせばそんなばかげた考えが出てくるのだ」ってセリフもあるし。ほんとに誰か、原作ちゃんと読んで脚本書き直してよ〜。
脱線。なんだろうなんだろう。うん、やっぱりそうだよね、「ここ」に「何かある」よねって、それがいいたいばっかりなのかもしれない。
「ここ」を感じた体験は、例えば。私は「女の子」に分類されても「てめえ、ふざけんな!」と言いたい小学生だった。ま、今では自由に言いたい放題だけれど(笑)。言葉遣いが悪いのは男女問わず褒められたことではないだろうが、私には「男言葉」の方がちょっと自由に思えたのだ。ようかん台*4を一人で持てるのが、なぜ男の子だとなにもないのに、私だと「え?一人で持つの?!」とか「馬鹿力〜!」になるのか。保健で習ったじゃないか、小学校高学年では女子のほうが平均的に発育に優れているって。クラスでも背の高い私が一人で持てるのは、何の不思議もないじゃないの。持てるものは持てるんだってば!「てめえ、ふざけんな!」
そんなことを時々思いながら、中学に入りセーラー服などを着せられて、くら〜い中学校時代を過ごしていた頃に出会ったのがベルばらだったんだ。ふむふむ。

*1:しかも単行本!珍しい。しかも見た感じ2年位前に出た復刻版ではなさそうだった…とチェックしていた私

*2:最初と最後を読むとオスカル、アントワネット、フェルゼンの3人が主人公だったのだと分かる ※アンドレは入ってません

*3:ベルサイユのばら大事典』集英社 2002年 本家の集英社がこんなもの出していいのか、と思うおふざけ企画もある。「ベルばらカルタ」とか。それもアニメネタも混ざって。ああでも、発売日には本屋を渡り歩き最終的には注文して買ったあの頃が懐かしい・・・

*4:教室の黒板の下に置いてあるヨコ1m、高さ30cmほどの台。これも方言なんだろうか?