『産後クライシス』

読書メモ。

  • 『産後クライシス』(ポプラ新書)

良書だった。「あなたたちは読まなくてもいいんじゃない?」というカップルが思いつかないくらい(クライシスになっていないカップルが読んでもよいと思う)。タイトルからも内容からも、身近に結婚や出産を控えていない人は手を出さないかもしれないが、コアメッセージと私が思ったのは「コミュニケーションの大切さ」であり、特にこうしたイベントが周りになくとも、パートナーや家族について考える上で読めば参考になることが多いのではと思った。
個人的な要約としては以下。
・夫婦間の愛情(相手に愛情を感じる人の割合)は、妊娠時に7割、子が2歳の時には男性5割、女性3割になる。このように出産を境に愛情の下降は著しく、しかも元に戻らない、離婚に至るなどの事態を招いており、出産後は夫婦の「クライシス」と言える。
・典型例は、「(妻の愛情低下、不満に)気づかない夫」「根に持つ女」である。
・処方箋は、夫婦間のコミュニケーションである。
我が配偶者は読んで驚愕したとのことだが、個人的には、一つ一つの例や全体的な話について目新しいことはなかった。「はじめに」にもあるとおり「実は、出産後に夫婦間の愛情が下がるのは新しい現象ではありません」(p.7)。多少でも家族や家事労働についての本を読み、母世代の愚痴などを聞いていれば、やっぱりそうなんだ/そりゃそうだろう、という内容である。それでもやっぱり良い本だと思うのは、読みやすさと分かりやすさか。そして、これがうっすらとまたはくっきりと、日本の「家族」の不幸の元になっていると指摘しているところだろうか。
私は、結婚関係(特に結婚式)のもめ方も基本構造はだいたい同じだと思った。しかし、破壊力が違う。結婚式には終わり(当日)があるが、出産に続く育児にはない。結婚式は傾向としては「女性が気合を入れて臨んで疲れ、動かない男性にイライラする」というパターンではあるものの、あくまで傾向であって当人の性格・趣味に負うところも大きいが、出産は性により役割が固定的で、そしてそのまま多くの場合自動的に育児の役割分担にスライドしていく。そのため、「男って」「女って」と性差本質主義者のように考えがちになり、相手の立場への想像が及びにくくなる。ここに横たわる深い溝、あるいは壁。そして、結婚式を「命がけ」でやるというのは比喩だろうが、出産・育児は文字通り命がけである。責任が重い。(結婚式でもすでに禍根を残しているカップルがいるとすれば、相当心した方がよいのだろう)
出産後に愛情が下がること自体ではなく、愛情が下がることを問題と感じるようになったことが変化であると「はじめに」にはある。つまり、「こんなんじゃいやだ、耐えがたい」と思うようになったわけだが、「いやだからどうする」が追いついていないがための惨事であふれている。対策としての「質の高いコミュニケーション」は、私もその通りだと思うし、「一般人がそんなことできるか!」というものでもない。ないが、なかなかどうして、これは不断の努力が必要なことではないかと思った。