そうこうしていくうちにも始まる能。あいさつを終え、地が囃子が、そしてワキが出て行く。ワキが出て行ってから面をかけ、その具合や姿勢などいろいろ直していただく…のはいいが、気がつけば私はまだ鏡の前にいるのに、ワキが江州粟津の原に着いているではないか!急がないでよ*1!(そういう問題ではない)というわけなので、ごめんねY君、謡全然聞いてなかった…いつもは結構しみじみ聞いているんだけどね。本当にギリギリまで先生があれこれしてくださるので、いつもよりコイ合ひとつ後で「お幕」*2そして出て行く。全然、思うように歩けない…やっぱりもっと歩きこまないとダメだったかな・・・しかも長いよ橋掛。なかなか舞台にたどり着けないなあ、と思いながら行く。そう、わりと冷静だったのです。どうなることかと思っていましたが、舞台が淡々と終わっていくのを静かに見ているような余裕がありました。それでも、面の中は汗びっしょり。
最初の謡、私は自分でまあ普通だと思っていましたが、後で聞いたところによると「うわっ、違う!」「何かが降りてきた!!」と地頭や大鼓は思ったそうです。後でビデオ見たら下手じゃん!と自分では叫んでしまったけど。舞台は生ものだからね、その場にいたお客さんによく聞こえ見えていたのならそれで十分満足ですが。でも実は前シテの謡の後半あたりはビデオで聞いて自分でも満足の出来で…二日前に「もう謡分からんんーー!知らん!」と叫んでいたのも懐かしい(笑)上手くいったのは、面のおかげもあるんだろうか、なんとなく。面の魔力のおかげかな。前述の通り汗びっしょりで大変だったので、謡が終わったら「あとは座って、少しの型をするだけだ〜やったー」と心のどこかで考えてもいました。おかしなもの。
そして中入り、早着替え。またもぎりぎりまで色々直していただいて、ヒヤヒヤしながら「お幕」。後場は…あかんかったー!!全然気づいていなかったのですが、橋掛から舞台に向かうところで大鼓と接触事故未遂。後席で大鼓の先生に指摘されてびっくり。ビデオ見たらやばかった〜。今まで同じこの能楽堂で舞台稽古2回、申し合わせ1回やったけど1度もやらなかったのに〜!!本番は本当に思いがけないところでミスるもの。そしてこの大鼓接触未遂、去年の経正さんもやったのでした…そしてその元経正が今年の大鼓。先輩曰く「ちょっと親近感♪」(笑)
後場は謡は量的にはほんのわずかですが、いつも強さが足りないと指摘されていました。そのせいもあったけど、ものをあまり考えられなくて「もうとにかく叫ぶしかない!」という状態でひたすら声を出した感じでした。果たしてこれは謡になっているのか?と思いながら。足拍子で上体が揺れて揺れて、それがあーーやってしまった、ダメだ!!とショック。止まったりはしなかったけど、歩数を数える余裕をなくしました。申し合わせでは、頭の中でスミからワキ座は12歩とカウントできてたのに。小回りもどっひゃーと思いながらとにかく回り、ああここキメたかったのになあ…と。でも、ヒラキをしたところで思ったより謡とずれていなかったことに安堵。そこから先、写真のシオリのところは…2日前ほどに会得したシオリのコツと、これも1週間くらい前にはたと気づいたこと(このシーンは「汝は女なり。忍ぶ便もあるべし」を思い出しているんだ!と…遅くてすみません)を生かすべし!と意気込んだら・・・地謡にテロられた!(笑)「捨てられ参らせし怨めしや」の「怨めしや」がやたらと大きい!1週間くらい前から大きくしているなあと思ってたけど、、もうほんっと、やりすぎ!!(笑)いつまでシオってればいいんだよ?・・・しかし、本番の試練はそんなことではなかった。問題はクセ以降。
巴はシテの動きが少なく、ずっと座っているところが多いのです。なので…暇なのです実は。練習ならかえって自分やストーリーに集中できるのですが、客席が気なってしょうがない。あの面からでもなかなか見えるのです客席の様子。近くは見えないけど遠くは見える。そして座った私の真正面にいたのは、母。なんだか眠そ〜うに、うつむいているよね母!!あーもうまったく!まあそんなことだろうと思ってたけど…待ってよ?今の私が座っている場面で眠たくなるなら分かるけど、今寝てるってことはさっきの動いてたの見てないってこと?!ああ前の方にいるおばさまも寝てらっしゃる!足拍子したら、一体いくつの頭が跳ね起きるんだろうか…そんなこと考えているからいけなかった!!最大のミス、かなり好きな場面の義仲の最期の描写のシーンで座ったまま踏む足拍子の拍を取り間違えてフライング!あーあ・・・フライングして足を上げてしまったのでもう一度下ろして正しく踏みましたが…ま、知らない人には分からなかったかなー…と期待している。
第2関門。またいいシーン、義仲に自害してください私も共に、とお辞儀するところ。ここでまず見えたのが父。また眠そうだよこの人も!嫌がらせに来たのかうちの両親は…(笑)できるだけ気にしないようにして、忙しい中来てくれたfacerさんを見つけてああありがたいなあと思う。ちなみにたぶん京大1年のM君だと思うんだけど、(話したこともないのにこんなところで名を挙げて申し訳ない…京大の人、誰か見ていらっしゃるのだろうか)、正面の8列目くらい?の隅に座って斜め前に座っている人の頭が邪魔で見にくそうにして横に身を乗り出して見てくれてたよね。違うかな?とにかくそういう人がいました。そんなのも見えちゃうくらい、不思議に冷静。でもこのお辞儀あたりから気持ちも盛り上がってきて、太刀が邪魔でお辞儀しにくい!と思いながらも、胸が熱いような悲しいような気がしました。
「かくて御前を立ち上がり。見れば敵の大勢」敵が迫ってくる!馬の蹄の音は聞こえはしなかったけど、「聞こえるはずだ」という感覚…今までで一番すんなり入り込めた気がした。長刀を使っての舞、3月からずっと練習してきたここ仕舞部分ではあるけど、かえって、失敗しなかったからそれで満足。一番失敗する可能性のある場面だったから。長刀床にぶつけないかなとか、こけないかなとか。そうそう誰か教えてください、私は「後も遥かに見えざリけり」で橋掛の方へ行ったとき、ちゃんと二の松(三本立っているうちの真ん中の松)あたりまで行けてたんでしょうか?あ、このとき止まる足間違えました。
このあとの最大のハプニングは烏帽子が取れなかったこと。10数年前に先輩たちが巴をやった時には、太刀がなかなか抜けなかったらしい。そこで太刀は心してかかり、あっさりとれたので安心していたら…引っぱっても引っぱっても烏帽子の紐が緩んでこない!結構焦って、かなり必死で引っぱってしまった。ある先輩曰く「面を外そうとでもしてるのかと思った」いやそれはないでしょう!(笑)「先生来てください〜(泣)」*3という心境。結局先生が来てくださって無事にはずれ、次の型あたりで謡にも追いつくことができる。地謡も…緩めてくれた?のかな?心配していた型、僧であるワキに向かって合掌する型も無事にぴったりいき(面かけると左右の手がずれるんです!)、幕へ。ちゃんと幕へ入るあたりで拍手が起こったのがうれしい。鏡の間に入って…なんだろう、呆然とというか疲れたというか。とりあえず、記念撮影。
ぼけーっとしている余裕はないな、と思い、考え事は全部後回しにして片付け・後席にいく準備。「水に注意」の花が楽屋に届いた。本当のことを言うと、3時間くらい贈り主を勘違いしていた。
さて、この長い長い項を読破してくれた方、もしいましたら、ありがとうございます。おつかれさまです。そして、まだ…あります。長い長い一日だったのです。

*1:能ではよくどこかからどこかへ旅をするときに、舞台をちょっと歩いただけでたちまち到着し「いそぎ候ほどに○○へ着きて候、と謡う

*2:立ち役が幕から出て行くときにいう言葉。幕係への合図。客席からでもわりと聞こえます。私のも聞こえたらしい

*3:先生は後見といって、何か舞台で不具合のあったときに助ける役で舞台の後に座ってみえる。黒子といえば分かりやすいか